−文藝春秋刊 井上ひさし氏著 『ニホン語日記』から−

　いわゆる「湘南問題」について

　 　ことの起りは自動車の急増にある。

　−中略−

　そこで運輸省は相模事務所を二つに分け、九四年に新しい事務所を開設することに決めた。そしてこの新しい事務所が平塚市に設けられ、その名も湘南事務所になるらしい、したがって、新ナンバーも「湘南」になるのではないかという情報が流布し始めた。

　−中略−

　平塚市を湘南市に改称しよう、平塚駅も湘南平塚駅に替えて市の活性化を図ろうという運動が起った。こうして「湘南問題」に一挙に火が点いたのである。

　−中略−

　そしていま、平塚市が「湘南の中心はわが町」と僭称し始めたわけである。

　−中略−

　だいたい「地名いじり」は愚かな行為である。湘南はイメージがよろしい。そのイメージに乗っかれば御利益があるだろうというのは軽薄、かつ、さもしい心根である。これまで日本国の地名がこうした馬鹿な動機でどれだけ下らぬものに取り替えられたことだろう。どこへ行ってもナントカ台、どこを向いてもナントカ丘、日本中がうすっぺらになってしまった。なによりもイメージというやつは移ろいやすいものである。その移ろいやすいものを目当てに文化遺産の最たるものである地名をいじくり回すのは刹那的で、かつ傲岸不遜、というより地名殺しの大犯罪である。わたしたちの世代はあまりにも多くのものを殺してしまった。せめて地名ぐらいはきちんと子孫に譲り渡そうではないか。

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−岩波書店刊 『広辞苑 第四版』から−

僭称(せんしょう):

勝手に身分を越えて上の称号を自称すること。

さもしい:

見苦しい。みすぼらしい。いやしい。卑劣である。心がきたない。

心根(こころね):

心の底。本性。

刹那的(せつなてき):

刹那主義(せつなしゅぎ):　過去や将来を考えず、ただこの瞬間を充実すれば足りるとする考え方。

傲岸(ごうがん):

おごりたかぶってへり下らないこと。

不遜(ふそん):

謙遜でないこと。思い上がっていること。

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−平塚ケーブルネットワーク注−

• 『いわゆる「湘南問題」について』は、1992年(平成4年)3月頃、著述されたもののようです。
• 現時点(1998年3月)では、「平塚市を湘南市に改称しよう、平塚駅も湘南平塚駅に替え」よう、という表面的な動きは、当時ほど感じられなくなりました。
  　これは、「湘南問題」発生時に、永六輔氏が「湘南を付ければいいものではない」と平塚(市)の「湘南推進派(仮称)」を一喝した(らしい)ことに代表されるように、「湘南推進派(仮称)」が各方面からだいぶ叩かれたためと推定されます。なお、永六輔氏の発言は聞きかじりのものです。明確なエビデンスをお持ちの方がいらっしゃいましたら、お知らせ下されば幸いです。
• それに代わって「湘南推進派(仮称)」がとった苦肉の策(推定)が、「平塚」を「湘南ひらつか」と呼称することの既成事実化を推し進めることであったと考えられます。これは、現在も進行しております。具体例のいくつかは、下表と「各地の湘南度数」をご参照下さい。平塚(市)の湘南度数が他の市町に比べて突出していることも、このことを裏付けています。

　平塚市の「湘南ひらつか」への歩み
−平塚ケーブルネットワーク 1998年3月作成−

年月	できごと	備考
1992年初頭	いわゆる「湘南問題」ぼっ発	『ニホン語日記』から参照
1993年7月	平塚市(ほか)、平塚七夕まつりを「湘南ひらつか七夕まつり」に改称	湘南ひらつか七夕まつりホームページ参照
1994年7月	平塚市、湘南ひらつかビーチパーク開設
1994年7月	平塚市、「湘南ひらつか」の使用について公式見解を広報	「広報ひらつか」から参照
1994年10月	湘南自動車検査登録事務所が「湘南ナンバー」の交付を開始
1996年	株式会社ベルマーレ平塚が、株式会社湘南ベルマーレ平塚に名称を変更

平塚市の「湘南ひらつか」への歩みについて:

• 事実と異なる記述や誤りなどがありましたら、お手数ながらご連絡下さい。速やかに対処させて頂きます。
• 上表は、現時点(1998年3月)で確認できたものです。これ以外のできごとについても、確認でき次第追記します。
• ベルマーレ平塚は民間法人ですが、平塚市との関連が強いとみられるため(ベルマーレ平塚市民応援団からの提言参照)併記しております。